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タタール人の砂漠
幽霊の2/3
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女
初夜
殺す者と殺される者
ミレニアム2 火と戯れる女
トーベ・ヤンソン短篇集
ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士
天使も踏むを恐れるところ
オン・ザ・ボーダー






オン・ザ・ボーダー       沢木耕太郎

沢木耕太郎ノンフィクション 4












<100914>






天使も踏むを恐れるところ
                E・M・フォースター   中野康司・訳


感情の赴くまま、足を踏み入れたリリア。
関わりあうことも拒否するハリトン夫人。
距離を保ちながらも異文化に傾倒するフィリップ。
先入観なく体験することに素直に反応し、その都度感じ考えるキャロライン。

慎重や重厚といったものと情熱や享楽のようなものとを、イギリスとイタリアに置き換えて表している。むろん両者の対比は優劣ではなく純粋に「違う」ということではあるけれど、その違いは予想以上に大きなもので、思わぬ摩擦を生むことがある。この場合は登場人物それぞれが異質なものに触れた時、ふと自分を見失い、慎重なはずの判断が取り返しのつかない間違いを犯した。喜劇的な悲劇だ、というより悲劇的な喜劇だと皮肉るべきか。

あとがきによると、題名の出展はイギリスの詩人アレクサンダー・ポープ『批評論』の一節「天使も足を踏み入れるのをためらう場所に、愚か者は飛び込む」とある。この本もちょっと興味深いけれど、読めるんだろうか?

Memo
>死者は非常に多くのものを運び去ってしまうように思われるけれど、実際は、生きている人間のものは何も持っていきはしない。(白水Uブックス p.206.3)

<100914>






ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士
      スティーグ・ラーソン    ヘレンハルメ 美穂 岩澤 雅利・訳



<100806>





トーベ・ヤンソン短篇集    トーベ・ヤンソン    冨原眞弓・訳


長いこと気になっていた積読本。
「自然の中の芸術」「リヴィエラへの旅」が印象に残っているが、圧巻は「聴く女」。

人、未来、心、対象が何であれその観察や表現は向けられる視線の段階ですでに彼女の世界観にふんわりとくるまれているようだ。いや、その実しっかりと見据えられているのかもしれない。
<100801>







ミレニアム2 火と戯れる女
       スティーグ・ラーソン  ヘレンハルメ美穂 山田美明・訳














第一部「ドラゴン・タトゥーの女」に強烈な個性で登場したリスベット・サランデル。第二部のヒロインが彼女となれば第一部既読の読者は吸い寄せられる。前作に変わらず筆は滑らか、展開はスピーディ。
但し、正義感や不屈の精神は人並み以上だったけど、言ってみれば普通の編集者だったミカエル・ブルムクヴィストが相当スーパーマンになっている。前の事件で鍛えられたんでしょうね。

孤独なヒロインは、こんなメッセージを残したのさ。
「いままで友だちでいてくれてありがとう。」
<100729>






殺す者と殺される者    ヘレン・マクロイ    務台 夏子・訳



東京創元社の〈文庫創刊50周年記念復刊リクエスト〉第3位作品。
復刊されて、おかげさまで読めました。
不気味に、不穏な空気が迫ってくる感じは苦手だけれど、それが何なのか、何故なのか。知りたいと思うのが人情だから読み進める。

途切れる記憶、知らない事実、後から知らされる恐怖。
そういうことだったのか!
<100714>






初夜         イアン・マキューアン   村松 潔・訳





うまいなぁ。
その時にはわかり得ないこと、思いつくことすらできなかったかつての自分へのまなざし。そんなものを感じた。
たった一回の人生を、やり直しはできない人生を。
その時々を認めながら、人はこうやって生きているのかな。
<100708>






ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女  
          スティーグ・ラーソン  ヘレンハルメ美穂 岩澤雅利・訳














上下巻あわせてほぼ一気読み。マルティン・ベックシリーズで印象の良いスウェーデン作品ということで読み始めたがヒットでした。
出版社、実業家、富豪一族、未解決失踪事件、孤島、機密調査員、ハッカー、裁判…などをファクターに、飽きささずに読ませてくれる。

社会派推理小説っていうのか、私にはスウェーデンは社会福祉が充実した国のイメージがあるけれど、それは確かにそうなのかもしれないけれど、一方で悩める暗い部分も見えてくる。

2、3とそれぞれ上下ですでに翻訳されている。読む予感。
<100706>






幽霊の2/3     ヘレン・マクロイ    駒月雅子・訳


東京創元社の〈文庫創刊50周年記念復刊リクエスト〉第1位作品。
断然、読んでみたくなる。

1956年の作品、古さは感じない。長く絶版だったそうだけど、多くのミステリーファンが復刊を望んでいたのは、やっぱり正統派の作品だったんだと思った。
無駄や破綻が無くて、とても面白く読んだ。

登場人物は作家、エージェント、出版社社長、そして文芸評論家。出版界の片隅が舞台になっているけれど、謎を解いたのは意外な人物、途中から登場した精神科のお医者さんだった。

人気作家のエイモス・コットルは過去を失くしたまま亡くなるんだけど、精神科医のウィリング博士がその過去を見つけ出してくれた。その人となりが浮き上がってくる、その辺が上手。
<100624>








タタール人の砂漠       ディーノ・ブッツァーティ    脇 功・訳


また、すごい本に会っちゃった。人生だな、人生。

いつ来るかわからない、漠然とした敵を待つ砦。
その砦に人生を埋めてしまったジョヴァンニ・ドローゴ。
砦があるから隣国は攻めてこないのかもしれない。でも、そこに砦があるから守らなくてはいけないということもある。
町から、家族から遠くはなれ、人としての自然な生活のほぼ全てから隔絶された砦での任務。眼前には果てしなく砂漠だけが広がっている砦に身を置くうちに、いつしか襲撃を待つまでになる心理。そしてそのとき戦うことが任務の完成。まるでそれが犠牲を払ったものの名誉であるかのようだ。

無念と勇気、そして誇り。ぐーっと胸に迫るものがある。
<100621>







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